「最善か無か」の時代からタイムカプセルでやってきた、魅力溢れるメルセデス・ベンツ500SEC(C126)
メルセデスベンツについてよく言われるフレーズなんですが、「最善か無か」というのがあります。ものづくりに当たって妥協しない、その時点でできる最もよいものを造らないのだったら意味が無い、という心意気を示した言葉ですね。
自動車の本家、メルセデス・ベンツ
高級車の代名詞のようにいわれるメルセデス・ベンツ。
「ガソリンエンジンで走る自動車」の第一号は1886年に造られたベンツのパテント・モトールヴァーゲンとされていますから、つまり自動車のルーツはベンツなわけです。元祖自動車。総本家自動車。高級車の、というよりは自動車の代名詞がベンツでも良いわけで、これはもう由緒正しいとかそういう次元を超えてますよね。「ああ、トヨタはんどすか。あそこもまあ、ほんの85年ほど前にトラックから始めやはったとこやし…」みたいな、もはや自動車界の京都人と言っても過言ではない、そんな存在です。いや、なんか余計にわからない例えやったかも知れません。ごめんなさい。かんにんどす。
「最善か無か」の時代とは
そう、そんなメルセデス・ベンツですから、もちろん妥協したものづくりなんてしてはいけないのです。本家の自覚と責任ですね。そしてそういう積み重ねこそが、押しも押されもしない「高級車」としてのクオリティを支えていたわけです。ここ、ちょっと過去形です。
1990年代半ば、そんなメルセデス・ベンツにもコストダウンの波が押し寄せます。自動車の世界でも世界的な競争が激しくなってきて、コスト度外視のやり方では戦えなくなってきたのです。結果としてメルセデス・ベンツは品質を落としてしまい、それまでのファンが離れて行ってしまうことになるんですよね。
それで、この時期までのメルセデス・ベンツのことを「「最善か無か」の最後の時代」なんて呼んだりするのですね。ちなみにその後、改心した(?)メルセデス・ベンツは、再び品質を高めていって、2015年頃にはまた「最善か無か」のスローガンを復活させていますね。
奇跡のワンオーナー、500SEC
さて、今回ご紹介させていただくのは、1988年式の500SEC(C126)です。まだコストダウンの洗礼を受けていない、最高の時代のSクラスですね。
V型8気筒SOHS4,973cc、252ps、というようなスペックはいま改めてここで書いても仕方が無いので、細かく触れません。
この個体がすばらしいのは、昭和63年に登録されて以来ワンオーナーというところでしょう。中古車の情報を見ていると、良くこの「ワンオーナー」という言葉が出てきますが、読んで字の通り「新車からいままで一人のオーナーが持ち続けていた」ということですね。この車輌の場合、実に32年間も共に暮らしてこられたわけです。
ワンオーナーという言葉で示される価値とは
たまに言われることですが、乗り物にはオーナーの癖がつきます。今の時代の工業製品、そんなことはあり得ない、なんていう人も居ますが、これは経験上本当です。例えば営業所などで、同じ時期に同じ車種を何台か購入して、それぞれ特定の社員が専用で乗った場合など。三年後には、ちょっと乗り比べてわかるくらい、しっかり癖がつきます。アクセルやブレーキの踏み方、ハンドルの切り方、シフトの入れ方。またそれがATであっても、レバーの扱い方。そういうことの一つ一つがクルマに癖として刻まれるのです。もしもそれが複数のオーナーの間を転々としてきた個体だとしたら、いろいろな癖がミックスされて、全体にくたびれた印象になるでしょう。
また、一人のオーナーが長く乗っていたということは、それだけそのクルマが気に入られていた、ということです。当然、気に入ったクルマは愛情が注がれます。丁寧に扱われるでしょうし、長く乗るためにはこまめにメンテナンスもされるに違いありません。長く乗り続ける人は、そもそもクルマとのつきあい方が違います。そしてそのメンテナンスの歴史、整備記録簿などがきっちりと残されていることも多く、それを見ればクルマの状態がよくわかるので、それもまた大きな安心材料になりますよね。
年式の古いワンオーナー車というのは、それだけで「大切にされてきた」という証拠みたいなものです。最近テレビのコマーシャルで言われる「三年ごとに新車に乗れる」とか「一生新車に乗ろう」とかとは、まったく逆の価値観といっていいでしょう。
それだけ愛情を注いできたオーナーと、またその愛情を受け止められるだけの品質を持ったクルマとの幸せな出会いがあってこそ、ワンオーナーという言葉が輝き出すのでしょうね。
[ライター/小嶋あきら]
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