2020-07-26

実は560SLよりもパワフルなラグジュアリークーペ、500SL

美味しいものは脂と糖でできている、ということわざがあります。ことわざじゃないか。とりあえず、そう言われます。



美味しいものは必ずしも身体に良いとは言えない。これって、食べ物以外にも当てはまりますよね。たとえば昔から「音の良いアンプは電気をよく食う」とか言いますし、最近では「白熱電球の味わいはLEDには出せない」とか。人の感性とエコロジーとは必ずしも方向が一致しないのですね。



以前からこのコラムで度々書いてる気がしますが、エコで優等生なダウンサイジングターボの「馬力」とノーマルアスピレーション大排気量の「馬力」を比べると、やっぱり純粋に心に訴えかけてくる「パワー」は排気量あってこそなんじゃないかなあと思う、それも似てますね。



あと、音とか排ガスとか、そういうところの性能でも「官能」と「環境」というのはせめぎ合ってる部分ってありますよね。いま普通に走ってる乗用車ってものすごく静かじゃないですか。あれにそのまま抜けの良いマフラーをつけたところで、たいていの場合やかましいだけでパワーは落ちますよね。



日本に正規輸入されなかった500SL




しかし一方でサーキットを走ってるレースカー、ガチでパワーを追求してる彼らは決して静かではありません。乱暴にいうと、パワーを出そうと思ったらとにかくたくさん混合気を燃やすに越したことはないのですから、吸気も排気も抵抗は少ない方が有利ですよね。そう、やっぱり根本的にパワーを追求すると音もやかましくなるんですね。



音に関しても排気ガスに関しても、世界的に見て日本の規制は厳しいと言われます。アメリカのマスキー法から始まった排ガス規制の流れを受けて、日本では昭和48年以降毎年のように排ガスや燃費の規制が強化されてきたわけですが、その一方日本車はこれを律儀にクリアしていく中で、国際的にその品質が認められていったという面もあるといいます。国産車はある意味、規制に育てられたとも言えるかもしれません。





そういうあれこれを踏まえて、今回ご紹介するのはメルセデス・ベンツの500SLです。実はこのモデルは当時正規には日本に輸入されませんでした。これまでくどくどと前振りしてきた日本の規制をクリアしなかったためなのか、あるいは当時バブルの真っ只中の日本で「もっと大きな560SLが輸入されているのに500SLは売れないでしょ」という「一番良いやつをくれ」的志向が邪魔をしたからなのか、その辺りはよくわかりません。



実は僅かに560SLよりもスペックが上、という満足感




確かにこの500SLは560SLよりも排気量は少し小さいですが、しかし実はパワーは僅かながらこちらの方が上なんですね。日本に輸入された560SLが235PS/4750rpm、対して並行輸入で入ってきたこの500SLは240PS/5000rpmです。この辺りの5馬力差は実際に感じられるかどうか微妙なようにも思いますが、発生回転数が僅かながら上にあるということは体感的な吹け上がり、頭打ち無くパワーが続いていく感じ、というようなことはあるかもしれません。



なによりこういう細かいところにこだわってこそのクルマ好き、なんじゃないでしょうか。乗っているクルマに関して語るべきことがある、それだけで意味がありますよね。



四人乗りも選べる美しいクーペ




流麗なクーペタイプのオープンカー。5000ccの排気量で人二人を運ぶという贅沢さ。このR107が入ってきた頃の世の中の空気を今もまとっている、そういうクルマです。なんて書いておいてアレなんですが、この粋でイナセなシルエットからは信じがたいことに、実は四人乗りが選べるんです。もちろんリアシートは快適とは言えないかもしれませんが、見た感じ「CR-Zのリアシートよりは圧倒的に普通に乗ってられそう」です。
メルセデス・ベンツのクーペに関して、いつもいつも「大人の」というフレーズを使ってしまいますが、これもまさに大人の色気漂うクルマです。大人と言ってももちろん「二十歳を過ぎている人間」という意味ではなく、また「ターレン」とも違います(そんな間違いする人居てませんね、はい)。



新成人のアンケートで「欲しいクルマ」の一位がプリウスになってしまうエコな世の中です。しかしクルマの魅力って本当にそんなもんなんでしょうか?



法律上の「大人」と私たちクルマ好きの考える「大人」は、一昔前のグロス表示とネット表示よりも大きな大きなギャップがあるのです、きっと。
酸いも甘いもかみ分けた、このクルマに負けない色気をまとった大人にこそ乗っていただきたい。ちょっとレアなメルセデス・ベンツ、500SLです。



[ライター/小嶋あきら]

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