2020-07-31

コンパクトなボディにシルキー・シックス。目下高騰しつつあるZ3 Mクーペ

海沿いのバイパスは七月の強烈な日差しを浴びて白く光り、所々に案内板が濃い影を落としていた。風はオンショア、塩気を含んでやや温度が低い。フロントガラスを染める青い空に、水平線の辺りから真っ白な真夏の雲が立ち上っている。それはまるでこのクルマのエンブレムのような鮮やかなコントラストでめくるめく夏の午後を描き出していた。そう、誰もが木陰に逃げ込むような…。



なんていきなりどこかで聴いた歌みたいなフレーズをぶっ込んでしまいました。今回ご紹介するのはそう、青い空と白い雲のエンブレム、BMWです。古い関西人はこれを「べんべ」と呼びますが、たぶん正しくは「ベムヴェー」なんでしょうね。って、カタカナで書くと正しいも何もないような気もしますが。



バイエリッシェ・モトーレン・ヴェルケ、英語でババリア・モーター・ワーク。その名の通り元々(航空機の)エンジン屋さんでした。なので、やはり得意技はエンジンといっていいんでしょうね。



なお、エンブレムの由来は永らく「青い空、白い雲、プロペラ」とされてきましたが、2019年に「実は違いますねん」とBMWから公式にアナウンスがありました。90年目のカミングアウトと言いますか、これまで「このエンブレムはなぁ…」と蘊蓄を傾けてきた我々BMWファンとしてはなかなか寝耳に水、青天の霹靂ですね。いや、それほどのことでもないんですけど、もうちょっと早めに言うてほしかったかな、って感じです。



E36タイプM3のシルキー・シックス




こちらのコラムで何度か書かせていただきましたが、BMWの直列六気筒、ストレートシックスは「シルキー・シックス」と呼ばれ、その静謐さとストレスのない吹け上がりで定評があります。この伝統のストレートシックスにさらにチューンを施して、コンパクトなZ3クーペに積んだ特別なモデルがZ3 Mクーペです。



Z3というと現在、中古市場ではかなり手ごろな価格で出回っている印象がありますが、Z3 Mクーペはまったく事情が違います。



Z3ロードスターをベースに、E36タイプのM3に搭載されていた3.2リッターのS50エンジンを積み、クーペタイプのボディを与えられたスペシャルバージョンで、1998年のデビュー当時には日本での新車価格は770万円。当時としてはかなり高価なモデルです。



コンパクトな車体に300psオーバー




コンパクトなライトウエイトスポーツとして登場したZ3は当初5ナンバーサイズで、排気量は1.9リッター、車重も1.2トンほどの小さなクルマでした。これのトレッドを広げ3.2リッター321psのエンジンを載せたのですから、その楽しさは推して知るべしです。初期のモデルに対して車重は1.4トンまで増えてますが、軽く二倍以上のパワーを与えられているわけです。ATが設定されず5MTのみ、という辺りからもこのクルマがとにかく走りの楽しさを追求したモデルであることがわかります。



Z3 Mクーペの価格は高騰しつつある




それだけに生産台数は少なく、現在ではかなり希少なモデルになっています。中古市場での価格は目下高騰中で、一部ではガレージにしまい込んで値上がりを待っているオーナーもかなり居る、なんていわれています。





ノーズが長く、対してデッキの短い独特のフォルムは多少好みの分かれるところかもしれませんが、それだけに気に入ればとことんはまってしまう要素の一つになりそうな気がしますね。



ストレスなくどこまでも回りそうなストレートシックス、自然吸気で300馬力オーバーのハイパワーを、マニュアルミッションで楽しむ。クルマ好きとして、これに魅力を感じない人は少ないんじゃないでしょうか。



[ライター/小嶋あきら]

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